手話 と 手話通訳

手話通訳の取り組みと研究からの伝承と教訓を提起。苦しい時代を生き抜いたろうあ者の人々から学んだことを忘れることなく。みなさんの投稿をぜひお寄せください。みなさんのご意見と投稿で『手話と手話通訳』がつくられてきています。過去と現在を考え、未来をともに語り合いましょう。 Let's talk together.

削ぎ落とされたシンプルな手話 思いの丈が籠められている 働く 反対 母 倍 晴 必要 ひと月 不思議 ひま 普通 病院 不満

京都の 手話 の手引き 1960年代検討されて作成 資料11

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 イラストの絵は、京都の日本画家として生計を立てていたろうあ者に描いてもらったものである。みんなで相談して、凸版をつくり、それを当時、京都の下鴨にあった京都府身体障害者福祉センターろうあ者更生施設で印刷されたものである。印刷技術上の問題や費用の問題などの信じられないほどの難問をくぐり抜けて、手話を知って欲しい、理解して欲しい、出来れば手話を覚えて欲しいとの熱い想いで創られてきた。今では容易に印刷できると思う人々も多いと思うが、ろうあ協会の仲間が、血と汗と多額の費用を出し合って創られてきた貴重な財産となっている。イラストだけを見ると充分でないと思われるかも知れないが、(凸版を造る関係で原画とはかけ離れたイラストになってしまっているが、それでも)表情や身体の動きを出来るだけ伝えようとする努力を読み取る必要がある。

 

不思議 ⇔ おかしい おかしい、疑問だ、不思議などの場合に親指と人差し指を顎につけて考えるしぐさから手話が創り出されてきた、とする意見や、人差し指を顎につけることで人差し指は┃ 顎のへこで ∧ そして唇のーを合わせて 不 の文字を表しているなどなどの意見があった。イラストの顔の表情は、少し虚ろな表情をしている。なにかおかしい、理解出来ない、へんだなあ、などを表しているように思える。不の形をつくっても表情でその意味は大きく変わる。眉間に皺を寄せる、目を丸くする‥‥

一月 眼から壱が飛び出す手話で一月、貳が飛び出すと二月などなど主として「一月経って 会おうね」などのその時からの一月、二月と表される場合が多い。ていねいな人は、眼から一を飛び出すようにしてその状態から月の手話を描いて一月としたりする場合もあった。しかし、手話は的確に、シンブルに眼で見て解るようにするために省略出来るものは極力省略された。シンプルな中に思いの丈が籠められたのが手話でもある。削ぎ落とされたシンプルな手話には、思いの丈が籠められていると理解出来るのには多くの時間を必要とする。

反対 は、漢字の「対」のむきあう、つい、そろい、の意味に対してそれが逆転する「反」を組み合わせて手の甲をぶつける。このぶつける程度で反対の強弱を表すが、手のひらを向かい合わせると「対面」とか「向かい合って」の手話になる。漢字の意味を深く捉えてシンプルに表現して意味内容も伝えるという手話。

働く⇒イラストの場合は、働くときの動作を一部とり入れて仕事・働くとしている。この手話の場合は、主として軽作業などで表されることが多い。重労働の場合は、拳をたたき合わせる手話で、ハンマーなどをたたき合わせて物を造る場合を表したりもした。綿々と続いてきた労働の形態をシンプルに表現しているひとつでもある。

普通⇔ 一般 普通は、漢字の普の=の部分だけを取り込んで表現した手話であるとされている。ところが、一般となると緩徐の=の部分がないではないかと疑問が起きるかもしてない。でも、=の部分を表す手話は、「押し並べて」という動きに類似する。だから「一般」とも理解され、特別などと区別される。漢字を取り込んだ手話。その動きを他の意味に転化し、相互関係を持たせて多義表現するのも手話である。

ひま⇔ゆっくり ひま(暇)は手隙・手空きなどの意味があり、そこから転じて両手を少し広げて下にさげて「ひま」と表されてきたが、こころを落ち着かせるなどの動きと合わせて「ゆっくり」などの相互関係を持たせた手話とされてきた。

 倍は、ひとつのマス目を積むことで二倍という手話である。次に下のマス目をさらにうえに積むと三倍と表した。升を使った生活から生じた手話であるが、それに拘ることなく同じ積み木を積むようなことで「倍になる」ことも理解出来る。
 これは実母から血のつながりのある(上の・大切な)女性=お母さんという手話である。大切なのは、女性の顔と小指の位置である。小指が下方にすると実の妹などで表現されたりする。簡略化して、小指を頬に付け女性で「母」を表したりされた。頬を上から下に動かすことで血の繫がりが表現され、その意味も籠められている。頬がポイントで単に血の繫がるだけの意味ではない。

不満⇒胸をたたく動作で、不満とするが、胸をなで下ろすことで「納得」「理解する」「解った」となるのでその逆の動きとして「不満」が理解されていた。
病院 脈をとる動きから屋根を表して病院とされていた。和風の家で表現されていることから歴史的背景を感じ取れるだろう。
必要 ⇔用事 身体に引き寄せることでどうしてもしなければならないと表現する手話。この引き寄せたものを逆方向に動きを変えると「必要ない」となる。
晴れ 眼が塞がれていたがそれが開けらたように見える。雲に覆われた空が、見えるようになる、晴れ。この場合も手の動かしかたで晴れていく様子を表される。自然とよく対話していた頃の生活体験が裏打ちされている。

 イラストの解説を概括に説明しているが、ここには伝承されてきたことや漢字に由来することも述べている。だが、意味が転化されたり、顔の表情、身体の動き、組合せ、方向の変化などなどで手話の意味も多様に変化する。従ってひとつの手話に拘らず多様性流動性のなかで手話を理解する必要があると記しておく。(作例 おかしい 必要 病院 を組み合わせると。)