手話を知らない人も
手話を学んでいる人もともに
{再編集投稿・1969年頃}京都における手話と手話通訳の遺産と研究・提議 佐瀬駿介
謝りに来たんではないんですか
保険外交員の妻と夫の顔を見ると、顔が真っ青になり、すっ飛んで部屋に隠れてしまったろうあ者。
外交員の妻は、ろうあ者の気持ちなど考えずに一方的声高にしゃべり続けた。
「なにをを言っているんです。」
「謝りに来たんではないんですか。そうでなかったら、帰りますよ。」
と言うと、急に態度を変えて、外交員の妻と夫は頭を何度も下げだした。
腹の底は見えている。
隣の部屋から襖を少し開けて、見入るろうあ者夫婦には「あやまる姿だけ」が見えるようにしていた。
ことばにはなんの誠意も感じられなかった。見せる、事だけは知っていたのだ。
襖の隙間から
恐怖心もともなって もういい、もういい
ろうあ者夫婦は、恐怖心もともなって、もういい、もういい、と襖の隙間からさかんに手を振り、早く帰ってという身振りと合図を送り続けた。
もう帰ってほしい。
二度と来てほしくはないというメッセージ。
そして、傷の付いた証書ではなくなった新しい証書を指さしていた。
保険外交員の妻は、「許してもらえた」と勝手に解釈。すぐ外交員の妻と夫は帰ってしまった。
「もう帰って、」の身振りは分かるらしい。
外交員の妻と夫を追いかけようとしたが、ろうあ者夫婦に袖を引っ張り続けられていたため追いかけることは出来なかった。
二人がドアーから出ていく様子を見て、ドアを内側から施錠して、お茶が出された。
安堵した顔が今もみえてくる。