手話を知らない人も
手話を学んでいる人もともに
{再編集投稿・1969年頃}京都における手話と手話通訳の遺産と研究・提議 佐瀬駿介
ある日。
未就学ろうあ者の保険証書を勝手に書き換えて、それまでの貯蓄を懐にしたが心底謝罪しなかった大企業の労務管理担当の夫が来た。
身体障害者手帳の交付の申請だった。
そして、交付されたら連絡がほしいということで帰った。本人の身体障害者手帳の交付ではなかった。
会社の責任になるので
気を紛らわすために女かなにか
身体障害者の手帳が届くと、右腕を失った青年とともにやって来て、青年に聞こえないようなひそひそ声で言う。
「工場の機械に右腕が挟まれて、一瞬で右肩から切断した。会社の責任になるので、気を紛らわすために、女かなにか、ないか。」
「右手を失った気持ちが紛れるから、女を世話しようと思う。」
と。
右腕が工場の機械に挟まれ切断された青年の絶望の気持ちを「慰める」ための担当が私の仕事だとも言い切る。
会社の責任を逃れて、本人責任に返すための仕事。それが自分の労務担当の仕事だともい言う。
若くしてガッシリたくましい身体から
右腕付け根から引きちぎられた哀しみは
青年は、なにも知らずに「よろしくお願いします。」と頭を下げていた。
青年にはなんの罪もない。
それどころか、若くしてガッシリたくましい身体から右腕付け根から引きちぎられた哀しみは、耐えようもないだろう。
この大企業は、毎年労働災害で障害者になった人が多く、身体障害者手帳を交付した社員は多くいた。
労働災害があるとこのようなことをするのが。
未就学のろうあ者を騙した夫の仕事がこれか、と分かると労務管理のやり口で保険証書事件が起きたとき「裏から手を回していたと思えた。
あの時、なぜ係長が一緒に行くようにい言ったのかぼんやり分かってきた。