手話 と 手話通訳

手話通訳の取り組みと研究からの伝承と教訓を提起。苦しい時代を生き抜いたろうあ者の人々から学んだことを忘れることなく。みなさんの投稿をぜひお寄せください。みなさんのご意見と投稿で『手話と手話通訳』がつくられてきています。過去と現在を考え、未来をともに語り合いましょう。 Let's talk together.

飛び交っていた手話が止まる みんながその人の手を注視



                  communion of mind with mind

 

 それからしばらくしてまた、ろうあ協会の集まりに参加した。

 

 聞えるのはやっぱり一人。

 

 今回は、会場に早めに行った。

 

 もう会場にはろうあ協会の人がいた。

 机を並び替えている。
 正面に向かって平行に置かれていた机を長方形に並べている。

 

 みんなの顔が見えるようにするのよ、と言われた。

 

 みんなの顔が見えるテーブルの配置。その時は、なんとなく解った気持ちだった。

 

 時間が近づくと参加者がやって来る。

 

 準備をしていた人は、司会者の近くの席を勧めるが、にっこり笑って端の席に座る人もいた。

 

  遠慮がちに前の席に座る人もいた。

 

 自然な光景に見えても少し違和感を覚える光景だった。

 

 そして、いつものように手話ではなされることが、「飛び交う。」った。
 
だから、その日も手話で話されていることは、ほとんど解らなかった。

 

と、突然、遠慮がちに前の席に座る人が手をあげて、手話をした。

 

 と、飛び交っていた手話が止まった。

 

 みんなは、必死になって遠慮がちに前の席に座った人の手話を見る。

 

 頷いたり、手をたたいたり、手話をする。

 

 すると、一人の参加者がその人の手話を見て 手話をする。

 

 と、遠慮がちに前の席に座る人は、それと同じ手話をする。

 

 と、みんなは拍手をする。

 

 飛び交っていた手話が止まって、一人の手話だけが見えた。

 

 時間は、刻々と過ぎるがみんなの眼差しは、一人の参加者だけに注がれていた。

 

 不思議な時間だった。

 

 あとで知ったのは、遠慮がちに前の席に座る人は学校にも行けず、読み書きも出来ず、一日家に閉じこもって生活していた人だった。

 

 ろうあ協会の人びとは、その人を誘い、自分たちの集まりに連れてきたとのこと。

 

 その人は、唯々じっと座るだけ。何回も。

 

 ある日、その人の手が少し動いた。

 

 飛び交っていた手話が止まって、みんながその人の手を注視した。

 

 これからがはじまりだった、とみんなは言い、その時の喜びは今でもあると言う。

 

  truth 手話で語る切っ掛けと援助