④ ろうあ者の生活領域拡大の意欲と条件整備
ろうあ者の手話通訳要求については、どんな場合でも、手話通訳者の同行または派遣によって意志疎通をしていくことが、手話通訳要求に応える全ての内容なのである。
このことは、ろうあ者自身の主体的な生活の確立とその努力、意欲とかかわって検討を加えることが大切となっている。
もちろん、ろうあ者個々人の生活経験の蓄積の度合いなどによって、画一的な結果は導き出せないことを前提に次のようなことも検討されなければなりません。
初診時においてのろうあ者の訴えや問診 通院
例えば、病院へ治療に通うときの手話通訳実践にその例が多く見られる。
初診時においてのろうあ者の訴えや問診。
その他については手話通訳を介しての意志の疎通をはかるが、2~3度目からの通院時には、その時々の状況に応じて、手話通訳なしでろうあ者が通院・治療するということである。
このことは、病状などを十分配慮した上で、ろうあ者・医師と前もって打ち合わせをし、確認を得たうえで実践していく。
受け付けのやり方や呼び出しの工夫、簡単な筆談などの協力を得る条件を病院側とも協議、協力して整備する
初診時における手話通訳は、直接的な意志疎通のみでその役割を終えるのでなく、受け付けのやり方や呼び出しの工夫、簡単な筆談などの協力を得る条件を病院側とも協議、協力して整備する役割などもあるのではないか。
また、入院中のろうあ者の意志疎通のために、毎日の問診のために、本人の意志表示のためにいくつかのカードにその内容を記入し整えるとか、同じ部屋の患者の協力を得るための人間関係をつくる役割をするなど、ろうあ者の意志表示や協力を求める意欲を支える条件整備も大切である。
民間の手話通訳者に福祉事務所に登録について
また、民間の手話通訳者に福祉事務所に登録し、同じ住民という立場からも、プライバシーの問題を充分考慮して、ろうあ者の意志伝達の役割を果たしてもらうなど手話通訳要求に応える体制の幅の広がりなどの改善を進めてきたが、さらに改善を図る。
これは、手話通訳業務の単なる「合理化」ではなく、ろうあ者の希望する生活への意欲を励まし、生活の領域を広げていくことにつながる。。
ろうあ者のかかえる問題の正しい解決は 手話通訳保障のみではできない
⑤ 手話通訳保障のみではろうあ者のかかえる問題の正しい解決はできない
手話通訳は、手話を音声語に、音声語を手話に置換するためにあるというより、置換することによって、ろうあ者の意志伝達やろうあ者が自主的判断をするための情報提供ができ、いろいろな人間関係のなかで行動していくことによって、生活の向上と権利の獲得の条件をととのえるところに本来の意義がある。
いうなれば、手話通訳の保障ですべての問題が解決するのではなく、ろうあ者のかかえる問題が何であるのか明らかにされていくことも手話通訳であるとも言える。
自治体手話通訳者の設置によって、ろうあ者の中には、これで自分たちのかかえている問題が解決できると大きな期待をもたれている。
私たちは、そうした期待にこたえていく努力を惜しんではならないが、そのことのみを追求するとかえって良くない結果や失敗におちいることがある。
ろうあ者が 手話通訳者の依頼によって
すぐに職場の人間関係がよくなるものではない
職場の上司の注意や指示が、健聴者に対するよりろうあ者に対してきびしいとか。
同僚はろうあ者のうわさ話をしているということの抗議のために手話通訳依頼が出され、手話通訳をしたが、双方の話し合いではなく、お互いの批難の言い合いになり、対立を鋭くする結果になってしまった。ことなどなどが数多くある。
こうした経験から、場面や状況によって、ろうあ者が、手話通訳者の依頼によってすぐに職場の人間関係がよくなるものではないこと、また、相手の考えをよく吟味し、話し合いを進めることなど積極的な気持ちをもつことにより、手話通訳依頼の内容が質的な変化を伴うようにすることなどがある。
手話通訳を依頼しても「何にも問題の解決はなく、かえってややこしくなった」など、一時的なろうあ者と手話通訳者との気持のズレや対立が生まれたりするが、こうした問題をどのように見ていくのか、どのように解決していくのかは、手話通訳者にとっても、ろうあ者にとっても大切なことである。