村上中正氏の聴覚障害者教育試論 1971年を思惟
聴覚保障と科学技術の進歩などを1971年当時受け入れられたかどうかの疑問があったとした。
この考えを解き明かすキーは、京都府ろうあ協会(当時)が、1969年から1970年にかけて京都府・京都府教育委員会、京都市・京都市教育委員会などにろうあ者の基本要求として提出し、以降この基本要求を実現させるために粘り強い取り組みをすすめていた記録にある。
科学的ろう教育を確立する と
京都府ろうあ協会の基本要求
京都府ろうあ協会の基本要求は35項目以上にわたる詳細なものであるが、この中でも特筆すべき項目を明らかにしておく。
ろうあ者の基本要求の前提として次のようなことが書かれている。
ろうあ者の基本要求 1969年から1970年にかけて
我々ろうあ者の基本的な要求は憲法に保障された健康で文化的な経済的にも恵まれた豊かな生活を打ち立てることです。
そのためには次のような政策を要求します。
1,職業選択の自由保障
略
2,教育の保障
イ 科学的ろう教育を確立する。
ロ、教師の身分を保障し、必要な人員を確保する。
ハ、教師の質的向上に力をつくす。専門教育の実施。
ニ、ろう教育の実態に合致する完全義務教育の実施。
ホ、成人教育の質的向上と普及に努める。
3,コミュニケーションの保障
イ、手話通訳を養成し、必要な公的機関に配置する。
ロ、テレビに字幕をつけるなど、マスコミについてもろうあ者に配慮する。
ハ、補聴器の改善及び普及に努力する。
ニ、ビデオレコーダーなど聴力障害者に役立つ新機械の開発。
ホ、ろうあ者問題についても社会に啓発し、我々が話し合いに困らない暖かい社会を作る。
以下略
4,参政権保障
5,公正裁判の保障
6,医療の保障
7,住宅の保障
8,老後の保障
9,文化活動を発展させより豊かな生活のための保障
10,生活保障
11,以上の政策を実現させるために
京都ろう学校の授業拒否事件の教訓
科学的ろう教育を確立するという要求
京都ろう学校の授業拒否事件を踏まえて、その教訓から京都府ろうあ協会が掲げた項目は、
科学的ろう教育を確立する
という基本要求であった。
合わせて、ろう教育の実態に合致する完全義務教育の実施、成人教育の質的向上と普及を考えると村上中正氏が、聴覚障害児教育としないで聴覚障害者教育として考え、聴覚保障と科学技術の進歩(聴力障害者に役立つ新機械の開発を取り入れる)としたのは、彼の独りよがりではなかったことは明らかになる。
いや聴覚障害者の権利・要求と不可分に結びついて考えていたからこそ、彼の聴覚障害者教育の試論が生みだされてきたと考えることが出来る。